トマト丸 北へ!

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『読みたいことを、書けばいい』(田中泰延著)を聴く---「他人の人生を生きない」ということ

オーディオブックで聴いた。めっちゃ面白かったよ。

肝は「他人の人生を生きない」ということ。

どんな文章術より、「自分が読みたいことを書く」を貫く方がよいというのが著者の主張だ。がりがりの「主張」ではなく、すごく笑えるし読むことで(聴くことで)リラックスさせてくれる本だ。

読者の年代とか時代のニーズとかを必死に考えて書いても、あなたの書いた文章は「誰も読まない」と著者は述べている。

これはほんと、何十年も小説やシナリオに応募してきて、ブログも書いてみて、実際に私が痛感していること。ほんとに「誰も読まない」。

中学以来の親友ですら、百枚の原稿を「読んで」と送ってから三年間音信不通となった。「送って。楽しみにしてる」という返信が、「きっと読むから」「まだ読めていませんが」「次のお休みには読もうと」「今年中には」などと変わってきたあげくのことだ。小説を送り付けたりさえしなければ年に二、三回以上、呑みに行ってたかもしれないのに、「読まなければ」という義務感で友を苦しめ疎遠になってしまった。

友情も義理も人情も通用しない。ましてや赤の他人の文学賞の選考委員(の下読みの人)がおもしろがるわけがない。なぜなら私は「宇多田ヒカルじゃないから」。

どうせ読まれないなら好きなことを書いた方がいいというのが著者の主張だ。

他人の評価を当てにしても得られない。たまに認められると「その人にまたほめられたいと願い、苦しくなる」。「自分のために自分が読みたいものを書く、を徹底するのがよい」のだ。それなら、少なくとも一人は読者を喜ばせることができる。<書きたいことを書く>ではなく、「(自分が)読みたいことを」というのが肝かもしれない。

 この話は文章術以上のものだと思う。

「書こう」という気にさせてくれるし、人生全般に対して勇気が湧いてくる、そしてなによりめっちゃ笑える本である。