トマト丸 北へ!

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『夜明け前』感想 その2

前述の『夜明け前』を観て思ったこと。

この善良な一家にこんな重罪人が生まれたのはなぜか、を考えた。

一つには、彼らの善良さ、真面目さが保を追い詰めたのではないかと思うのだ。日本人の多くが持ち合わせている勤勉で、生真面目な性格だ。

たぶん保は、煙草を吸ってみたり女の子をたぶらかしたり(それも悪意からではなくずるずると、という感じで)する、優しい、弱い性格の人間だったのではないだろうか。

しかしそれは、彼の周りの真面目な家族や世間には許容されなかった。彼の人間的な弱さは、周囲の批判や糾弾や叱責によって、しだいに黒く固く尖ってきてしまったのではないか。その尖った黒い塊が或る日彼を突き動かして犯罪に走らせてしまったということはないだろうか。

一般論になるが、「善人が悪人を作る」ということがあると思う。

ちょっとしたこと、注意して「だめだよ」と言えば済むようなことに対して正義を振りかざし、全人格を否定する勢いで襲い掛かる。見方を変えれば「悪いこと」とも限らない行為をした人に思い込みで悪いレッテルを貼る。そんなことがネットやテレビの中で行われているのをよく目にする。

大体がやさしい、根は悪くない人に対して行われることだ。

そして自分に貼られたレッテルが、しだいに烙印のように逃れがたいものに感じられるようになったとき、人は絶望して「よき人」たる努力を捨ててしまう。その一瞬に行われてしまう犯罪もあるような気がする。

本当のすごい悪人とか、強い力を持った人たちはどんなに悪いことをして指摘されても堂々と言い逃れ、反省などしない。

弱い人たちは「善人」に追い詰められ、さらに悪い方へ追い込まれる、ということがあるような気がする。