トマト丸 北へ!

本と映画、日々の雑感、そしてすべての気の弱い人たちへのエールを

瀧島未香『タキミカ体操』 サンマーク出版

この本を開いてまず気に入ったのが製本。「中綴じ」と言うのだろうか、見開きにするとぺたんと平らになる。体操の図解が見やすく、横に置いて見ながら体を動かすのに便利だ。こういうところに作り手の心遣いが表れていると思う。

買ったのは、表紙のタキミカさんの笑顔が気に入ったから。笑顔に魅かれてぱらぱらとめくってみて、この人の経歴にびっくりした。

昭和6年生まれ。90歳の「最高齢フィットネスインストラクター」というのが肩書だ。

70歳で開脚ストレッチに挑戦。3年で実現。72歳、水泳とマラソンに挑戦。90歳で初めて本気の歌のレッスン。などなど、私がもう年だからと諦めていることを私より高齢で挑戦、実現している。特に開脚とマラソンは、もしかしたら私も出来るかも、挑戦してみようという気持ちにさせてくれた。実は前からやってみたかったのだ。

「年取ったらできないことありますよ。現実を観た方がいい」「これからは進歩はない。せいぜい現状維持」とか言う人が多いが、あまりそんなふうに考えなくていいかも、という気分になれる。気楽に楽しんだ者勝ちってこと。

しかしやはり年の功で、タキミカさんの提案は年寄ならではの叡智に満ちている。

いわく、「一日一分、一体操でも十分」「回数よりも毎日続けるほうが尊い」。この教えこそ尊いと思った。挫折の原因は頑張り過ぎることだ。高い目標を掲げると出来なかったとき心が折れる。出来なかったことがストレスになってしまい、続ける勇気が失せるのだ。タキミカさんは「一秒でもOK」と言っている。どうしてもできないときは、一秒やって、「今日も出来た」と思えばいいのだ。

「休んだ分を取り戻そうとしてがんばりすぎない」ことがだいじだと言う。

「過去のマイナスにこだわり過ぎると疲れちゃいますよね。いつだって『未来志向』でゼロから新たに積み重ねていけばいいんです。」この言葉は体操だけじゃなく人生を明るくしてくれるものだ。

「何かを継続しているということがすべてのエネルギーの源」「ハマるものがあるのが人生の幸せ」「長く生きていればいろんな時期があります。静かな時期には自分の成長のためにできることをすればいいの」

「人生の後半期にとっては、一日一日が以前よりずっと大切」「時間が進むほど人生は濃くなる」などの言葉も心にしみる。

体操についても、「人には生まれつきの骨格や身体の構造がありますから『ほどほど』で十分です」「休んでOK」「運動の途中でも休む」「強度は徐々に上げる」など現実的で役に立つアドバイスが多い。

「タキミカ体操」は、タキミカさんと彼女のパーソナルトレーナーの中沢先生が考案した、「100歳になっても動き続ける心と体」をつくることを目的にした体操だ。これは、すべての老人の望みだと思う。良いのは補助の器具も道具もいらなくて、いつでもどこでも気軽に行えるということだ。

実際に私も毎日やっているが、家でちょちょっとできるので助かっている。少しでも体を動かすと気分がよいものだ。

この本を読んで思ったのは、タキミカさんもすばらしいけれど、このタキミカさんを見出して単なる生徒から90歳のインストラクターにまで引き上げた中沢先生もすてきだということだ。「年下でも教えを請いたくなるようなすごい人はたくさんいる」と言うタキミカさんと彼女の背中を押して指導者に抜擢した中沢先生の両方がすばらしい。中沢先生がタキミカさんのパーソナルトレーナーになったのは34歳のとき。そのときタキミカさんは79歳。素敵な師弟、名コンビの2人は倍以上年が違うのだ。

これからはおっちゃんおばちゃんではなく、ちょっと年下でもなく、うんと若い人に師事することを考えてもいいかもしれないと思う。

そんなこんなでとても気分の上がる、そして実用的な本です。